10月21日(日) ジュドさんとの共演

半年ぶりのMAILになります。皆さま、お変わりありませんか?

皆さまにお祝いしていただいた「BIRTHDAY PARTY」のご報告もしないまま、目の前の本番と、8月に開設しました「井脇 幸江Ballet Studio」の準備と運営。さらには私事ですが結婚という慌しさの中でも、この数ヶ月間はとても充実した日々でした。
それでも体調を崩すこともなく、とても元気に活動しています!p(^^)q

おかげ様で、スタジオの方も順調に動き出しています。毎回のように、新しい方も訪れていただいていますし、一方では常連の方同士が和やかな雰囲気をかもし出して下さるようになってきました。
月謝制クラスでは、曜日ごとのスタイルが見えつつありますし、オープンクラスでは、“オープン”という名のように、受講者の皆さまが自由に出入り出来る空間でありたいと思っております。
「一度レッスンしてみようかな?」という方でも、「行ける時だけ通おう」または「しっかり通いたい」方でも、どなたでも歓迎しております!
四谷三丁目の駅から徒歩1分と近いですし、平日は20時〜ですので、会社の帰りにでも立ち寄って、気持ちよく体を動かして明日への活力としていただければと思っています。

結婚に関しましては・・・実は、突然のことでした。
出会ってすぐに「この人の下でなら、納得して人生を終われる!」と思ったのです。それは、“ひらめき”みたいなものでした(納得した人生を“おくれる”じゃなくて、“終われる”っていうところが、私らしいかな?(笑) )。
主人とは、食生活や思考回路といった人生観が似通っていて、一緒に生きられたら楽だろうな〜と思いました。でも、結婚生活とは決して楽なものではないし、誰かと一緒に生きることは、時に難しいことでもあります。でも!大切な人と一緒に人生を重ねていくことは、私にとって喜び以外の何ものでもありません。40歳を迎え、人生の節目となったこの年に、こんな劇的な人生が待っていたとは!そう、BIRTHDAY PARTYの時には、思ってもいませんでした。
個人的なことながらNBSニュースでも取り上げていただき、佐々木団長をはじめ、バレエ団の事務所の方々や団員の仲間たち、そして舞台スタッフからもとても温かく受け入れていただきました。みなさまに、心から感謝しております。
それから、私たちを常に理解し守ってくれている両親たち。急な展開だったにも関わらず、時間を割いては私たちの話を良く聞いてくれました。互いの父親同士が動いてくれたのですが、その行動力と言葉の重さは、とてもありがたいものでした。
この時ほど私は、父親の(表面には出にくいけれど)深い深い愛情というものを感じたことはありませんでした。本当に、ありがとう。
主人の両親も「良いのですか?^^;」と思うほど、私の味方(*^^*)v。でもそれは息子への絶大なる信用があるからなのではないかと思い、これからたくさん親孝行をしていきたいと思っています。

いつまでも、優しい笑顔を見せ合える夫婦で在りたいです。

さて、少し時間が経ちましたが、9月に共演させていただいたジュドさんとの舞台についてお話したいと思います。
元パリ・オペラ座のエトワールで、現在はボルドー・バレエ団の芸術監督をされている、シャルル・ジュドさんとの共演は、私の人生にとても大きな影響を与えてくれました。
演目は、ニジンスキー振り付けの『牧神の午後』。この作品は東京バレエ団にとって、昨年の4月の初演以来2度目。私も2度目の出演でした。
昨年はリハーサルの間、何度もジュドさんの出演されているビデオを観て、イメージを膨らませていました。ですからそのジュドさんと共演するなんて、すぐには自分のこととして受け止められませんでした。

『牧神の午後』。ドビュッシー作曲のゆるやかで美しいその音楽は、聴いているだけで情景が浮かぶようです。それに対して、動きは平面的で常に真横を向いたポーズの連続。演じる者としてはニンフの心情の変化をどのように表現したらよいのか、とても難しく感じていました。初演した時は、指導されたことを守るだけで終わってしまったようにも感じ、腑に落ちない部分が残ったのを覚えています。

8月の『ジゼル』公演が終わった翌日のレッスン後、バレエ団のスタジオでジュドさんと初めてお会いしました。黒で統一された稽古着を着ていらして、すーっと背筋を伸ばし微笑を浮かべて、スタジオで体を動かす東京バレエ団のダンサーたちを眺めていらっしゃいました。「ニンフ役の井脇 幸江です」と挨拶すると、特に表情は変えず にこやかなままで二度三度と頷かれただけ。何事にも動ぜず…といった風貌でした(もちろん、私はド緊張)。
その日のリハーサルでは、6人のニンフ達もジュドさんから振り付けの手直しを受けました。手の曲げ方・真横を向く時の注意・感情、それは細やかで端的でした。いよいよ私の番。まずはこれまで通りのタイミングで動き、振り合わせをしました。すると途中で、「まだ待って」というように、手の平をを私の顔の方に向け、あるフレーズにきた時に「ここから反っていって」というように誘導されました。その時、ジュドさんの顔は私の目の前。それだけで冷や汗が飛び出しそうなのに、どのフレーズから動くかを記憶しながら踊り進めていかなくてはならない。しかも、言葉ではなく無言の教え・・・それはそれは緊張しました。
「今ので分かった?」と聞かれましたが、「はい」と答えないわけにもいかず…、すぐにまた私の出から音楽が流されました。

ポーズの意味に関しては丁寧に説明をして下さいました。「牧神とニンフは強い者同士。そして互いに強い興味を持って近づくのだから、しっかりと僕を見て・・・それから段々と牧神の強さに押されて、上体を反らせるんだよ」「この時の顔の位置は僕の手のそば、ここで止めて。こうして牧神は興奮するんだ」と。でも言葉で教えて下さったのは、この2点だけだったように思います。あとは音楽と共に、ジュドさんと向き合っているだけで、私は自然と横向きのラインを意識するようになっていました。どこまでどう傾けるか・・・それは正面(目の前)にいるジュドさんが実際に見せてくれているのです。私は何も考えず、彼を感じているだけで良かった。頭は、使いませんでした。

お会いしたその日のリハーサルは45分ほど。私に関しては10分間くらいのことでした。でも「あとは舞台で」という感じで終了。ジュドさんのまとった空気から、不安や焦りは全く感じられませんでした。

翌日からは舞台でのリハーサルでした。私にとっては初めての東京国際フォーラム・ホールC。楽屋は個室だったので静かに、自分のペースで集中することが出来ました。
前回と同じ装置と衣装だったのですが、ジュドさんが舞台に現れるとそれすら特別なものに感じるような空気。6人のニンフたちもいつになく神妙でした。

初日の舞台。私は幕が上がる前から“出”のポーズ(左手を右腰に、右手を左肩に置いたポーズ)をとったまま、舞台袖でジュドさんに釘付け!それは緊張しました。でもそこに居るのは、紛れもなく“パートナー”でした。踊り慣れているからと、私をリードするのではなく、極自然に音楽に戯れている“牧神”。だから私も気後れせず、ジュドさんの眼差しを受け入れ、ニンフとなって彼の目をじっと見つめることが出来たのだと思います。そんな、さり気なく自然なリードのされ方は初めてでした。

それからカーテンコール。普段はパートナーと、軽く打ち合わせをするのですが、ジュドさんとは一切無し。いつ、どのタイミングで手を出して下さるのか、互いに目を合せるのか、まるで分からない状態。正に「まな板の上の鯉」でした。緞帳の前に出た時の私の心境を言葉にすると・・・。「あ、ジュドさんから先に出るのね、当たり前か。まずは1回普通に挨拶。で?!あ、こっちを見た!もう1回ね?。あ!手を離された!こっち見てる!私もおじぎ。ジュドさん、ありがとう。それから?終わり?もう1回?・・・」というような、まるでデビューしたての小娘のようでした( ̄□ ̄;)。だからかな?ファンの方からは「ジュドさんの隣に居る井脇さんは、いつもより可愛く見えました」という声が多々寄せられました。

こんな初日でしたが、本番の回数を重ねながら自分がどんどん変化していくのを感じました。例えば、牧神とニンフが目と目を合せるポーズでは、言葉が交わされるようになっていきました。私の勘違いかな? だとしても、私の心の中には言葉として文字には出来ないけれど、擬音にも似た音色が流れていました(音楽が体から鳴っているような感じかな)。
それから、ジュドさんの瞳の美しさには、言葉を失いました。瞳の色はシルバーがかったグリーンで、中心に寄るほどゴールドになっていくの。特に私が、跪ずいているジュドさんの瞳を上から見るときは、その姿勢からか深海を覗くような神秘的な気持ちになりました。その瞳は、牧神そのもの。ジュドさんでもなく、演技でもなく、私に興味を持って近づいてきた動物の目。噛まれそうでちょっと怖いような、懐いているような…でも、オスとしての目。そんな牧神の目を見た私が、どう演じようとか、どこまで体を反らせようとか、考えるはずもありません。私も、ただそこに居るだけでした。

舞台は、素晴らしいものになったと思います。素直にそう思う。私のニンフも良かったと言っていただきましたが、自分に関してはまるで実感が持てませんでした。ジュドさんとだからあのような表現が導き出されただけで、決して私の実力とか演技力ではないからです。バレエという芸術の深さ、そして自分の未知なる可能性にも少し触れることが出来たように思います。

あの時私が居たのが、“芸術というバレエ”の世界だったのではないでしょうか。

ジュドさんとの共演で私が感じたことは、決して自力では知ることの出来ない、雲の上の世界なのではないでしょうか。今回学んだことを忘れずに、これからも踊っていきたいと、強く思いました。完全や完成、終わりのない世界に自分が居ることを、素敵に感じられる数日間でした。

ジュドさん、ありがとうございました。
日本にも、貴方のニンフがいる事を、どうか忘れないで下さいね。。。

                                      幸江より