12月9日(土) 『くるみ割り人形』

明るく楽しい…そして心が温かくなる作品、ベジャール版『くるみ割り人形』の東京公演が無事終わりました。平日にも関わらず、たくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました。

作品の持っている輝きを、くすませることなく最大限に表現できるよう、私も日々を努めて明るく過ごして本番を迎えました。久しぶりにレオタード姿で舞台に出ることもあり、ダイエットも途中までかなり頑張っていたんだけど、どんどんストレスが溜まっていくのを感じ、途中で一端中止!「楽しく食べて、元気に踊る方が良いよねっ」なんて自分に言い訳をして、大好きな人との食事の時間を楽しむ時間も持ちました。だからホントはあと2キロは減らしたかったんだけど…元気いっぱいに舞台に立てたから、ヨシとしてしまいましょう!(><;)
(でもKABUKIの遊女やバクチは、そうはいかないよね…がんばろ)。

今回は、小林十市くんと首藤康之くんがリハーサルから舞台稽古・本番に至るまで指導にあたってくれたので、ベジャールさんと作品を作った経験の無い若いダンサー達も、ベジャールさんの言語(動き)に触れることが出来たと思います。テクニックだけでは伝わらない、そういうところが作品を作る上では最も大事。その大事な部分を言葉で伝えてもらうチャンスがあって、本当に良かったと思います。
それは私達のように、ベジャールさんと直接お仕事をさせていただいてきた人間にとっても同じこと。気を付けて踊っていても、実際には客席からどう見えているのか、ちゃんと伝わっているかは、どんなに自分を客観視しても、自分から見た自分に過ぎない。だから限界があるんです。前で見てくれている人間の、目と心で感じ取ったことを聞けるのは、舞台人には一番重要なことです。十市くん、首藤くん、ありがとう!

それから何度かお話ししてきましたが、スタッフの協力が嬉しかった。靴を金色に塗ればいい。ただそれだけのことなのに、色の発色やポアントの布にこだわり、客席に金色の輝きを伝えたいと、5色もの金色を試してくれた女性スタッフのでみこちゃん。黒いTシャツに黒いパンツ姿で、時には髪を乱してでも絶対にダンサーに余計な気を使わせないという、頼もしい存在です。
それから私と同い年で、ずーっと長い間一緒に舞台を作ってきたNIKE企画の酒井くんと、大道具の重(しげ)ちゃん。。彼らは私が一番声をかけやすい、同級生みたいな存在で、スタッフとダンサーとしてだけではなく、舞台を作る同じ立場の仲間としての会話も、時には交わします。「スタッフのこういうことろが気になる」「ダンサーはもっとさ…」と、本音で話せる同志です。
酒井くんは“パリ”の出番前には下手袖で仕事をしているので、台詞に緊張している私が小声で「パリィ、パリ!…パ〜リィ?」と練習していると、リラックスさせようと下らないことを(ごめん^^;)小声でボソっと言いに来るし、重ちゃんは大きなマリア像を動かす為に上手袖で待機しているから、“妖精”の出の前に無理やり(?)テンションを上げようと、こそこそとモンローウォークをする私を、遠くから見て微笑んでくれる。彼らの目が優しく向けられているから、私は舞台への一歩が出せています。大げさでも何でもなく、本当にそう。

もちろん一生懸命に舞台を支えてくれるスタッフさんは、他にもたくさんいらっしゃいます。照明さんとは、舞台のことでもお話しする機会はほとんどありませんが、ピンで動きを追ってくれている時や出のタイミングなど、…私をじっと見てくれているんだな、と感じたことはたくさんあります。そして音響さんは、時には指揮者のように音楽のタイミングをダンサーに合わせなければならない。でも一度も「私がこうしたら音楽を出して下さい」とは言ったことがないんです。それは事前に何度もスタジオリハーサルを見学して、舞台稽古の時には既に全てを把握しているから。そして本番当日の朝は、舞台上でのレッスン前のひと時に、エリック・クラプトンの『tears in heaven』など優しい曲をかけて、音量などの調節をしながらダンサーをリラックスさせてくれたりもします。
それから衣装さん、みんな同世代の女性達で、いつも楽屋の一角に“衣装部屋”が設けられるので、ココは私にとっては絶好のリラックス場所。みんな私の冗談に、コロコロと声を出して笑ってくれるので、私の一発芸も冴えます( ̄^ ̄)。彼女達は女性スタッフらしく、いつもほんわかと和やかです。『白鳥の湖』の“スペイン”の衣装は、男性に踏まれるなどしてスカートがよく破れるんだけど、「布の劣化もあるから仕方ないよ」と、誰に頼んでも嫌な顔ひとつせず、敗れた布をきれいに縫い付けてくれます。だから思いっきり踊れるの。いちいち「また破いたの?気をつけて扱ってよね」って怒られてたら、あんなに激しく踊れないもん。
他にも、普段は「おはようございます」の挨拶しか交わさない方々もたくさんいらっしゃるけど、みなさんとっても明るくて、その挨拶で交わした眼差しだけで、「頑張れよ!」とか「元気?」とか声をかけてくれているような気がしています。
楽屋の世話をしてくれる製作部の方々にはも、いつもお世話になりっぱなし。アイシング用にと、いつも冷凍庫に氷を用意してくれるなど、痒いところに手が届くといった存在です。

『くるみ割り人形』は小道具も多く、たくさんのスタッフさんの力が必要でした。ボーイスカウトのシーンで投げ込まれる寝袋、舞台から投げ入れられるロシアの旗。赤、金、黒、肌色などの着色シューズ、赤や白の花、早替えに、かつらなどをメンテナンスしてくれている床山さん(ヘアメイク)も然り。舞台で踊るのは我々だけど、裏では本当にたくさんの力が舞台を支えています。この場を借りて、改めてお礼をお伝えしたいと思います。
みなさま、本当にいつもありがとうございます!

若手ダンサー達の頑張りも、このところ後輩に泣かされていた私には大変嬉しく映りました。作品を思う人、客席の為に踊る人、色んな思いがあって良いけれど、みんなのそういう熱意がぎゅっと凝縮された舞台だったように感じました。それぞれの思いは、皆さまに届きましたか?

光の天使・妖精の2ndキャストに入っていた(平野)玲ちゃん・(奈良)春夏・(田中)結子とは、『白鳥の湖』の“新・チームスペイン”に引き続き二度目のお世話(笑)。二度目なだけあって、お互いに甘え方や注意の仕方も慣れたもの。春夏とは特に同じ役だったので、日々声をかけていました。私達の年齢差は17歳。もう“可愛い妹”というより“大事な生徒”といった感じ。今の若者らしく、物怖じしない明るさで慕ってくれています。
その3人に対して今回はとにかく、手の高さや足の上げ方なんか揃えようとしなくて良いから、体全体から何らかのパワーが、目に見えるように踊ってみるようにと助言しました。「ヘイ!」とか「キャ〜」とか、黄色い声が出ていそうでも良いし、「んふ♪」とか「いやん♪」でも良いから…って(笑)。テクニック面では何の問題もない人たちだから、こじんまりまとまってしまいがちだったので、スタジオでのリハーサルの時から、「この人たち何がそんなに楽しいの?」と思われるほどのところまで、テンションを上げていってごらん…と。
衣装合わせの時はキャーキャーと、それは大騒ぎだったようです(私は既に踊っているので衣装合わせはしなかったため、その場には居ませんでしたが)。東京バレエ団初演の時の(佐野)志織ちゃんと私もそうでした。「こ、これ着るのぉお?!」って目をクリクリさせて2人で見合ったっけ…。こうやって、役が伝わっていくんですよね。

2日目の本番前、舞台袖にエールを送りに良くと、結子は笑顔だったけど、体中にはしっかり鳥肌が立っていました!スペインの時と全く同じ状態だったので、私は爆笑しちゃった。ごめんね?結子〜(笑)。春夏は抱きついてきたら心臓のバクバクが私の胸に伝わってきた。でも、彼女はこういう時にこそ力が出る。複雑な笑顔を見せながらも男らしく頷いていたのは、まな板の上の玲ちゃん(?)。さぁ、いってらっしゃい!
舞台では、3人とも体の中から楽しんで踊っているように見えて、観ている私も笑顔になれました。幕が下りて舞台上の4人は肩を抱き合って労い合い、3人は真っ直ぐ私のところに来てくれました。この瞬間が何とも嬉しい♪3人と握手を交わしたら、彼らの余韻の邪魔をしたくないから私はサッと退散。ちょっぴり「…私って良い先輩かも?」って自画自賛しそうになる瞬間です(/。\)

それから一緒に1stキャストで踊った(西村)真由美ちゃんと野辺(誠治)っち。一緒に踊っている分、ちゃんと見てあげられなかったけど、リハーサルでは何度も話しをして練習しました。真由美ちゃんも「色気が出ない…色気が出ないよぉ!」と毎日のように悩んでいたけど、衣装を着けたらノリノリでしたよね?あと1回、福岡公演でも頑張ろうね!

“パリ”に関しては「impression board」にも記した通り、対照的な2人(玲&カズ)でしたが、2人とも舞台を楽しむ術を心得ているので、私も日替わりのキャストを楽しむことが出来ました。ピアスも気に入ったものが手に入り、2日間で付け替えたんだけど、誰か気がついてくれたかしら?
台詞に関しては、「communication board」におさる(氷室友)が書いてくれた通り、開演45分前から緞帳が下りる時間まで、初日は(高橋)竜と、2日目はおさると一緒に喉のウォーミングアップをしました。「フェリーックス!」「パァリィ…」。「スペイン・中国・アラビア・ロシア…あれ?フランスは?」「サ・セ…パリ♪」。「ママ!」「…なぁにぃ!」って(笑)誰も座っていない客席に向かって、声を出しました。いつも早い時間から体慣らしをしに舞台に集まっているメンバーの(小出)領子や(長谷川)智佳ちゃん、小道具の準備をする酒井くんたちと笑いながら、「どお?声聞こえるかな?」「大丈夫ですよ、でもさっきの方が良いかも」などと協力を得て、「良いんじゃない?ね!」とビムと褒め合い、練習は終了。声って出せば出すほど、伸びるんですよね?それをちょっと感じた。公演前は喉を痛めないように、プロポリスのど飴を持ち歩くなどして、ちょっとした舞台女優気分♪でした(*^^*)。でも、台詞の言葉が短いから、「パリ」って言った後で(あ、声出なかった)とか(低すぎかな?)と思うばかりで、狙った高さがなかなか出せないのが辛い。やっぱり素人に台詞は難しいです。

他、初役で頑張っていたおさるのビムは、とても愛らしかったと思います。素直に役と向き合っていました。それから本番を迎えるまでに、彼の体は激変していきました。本当にラインがきれいになった。母親役の綾ちゃんもリハーサルの時から自分で髪型を色々とアレンジして、どれが似合うか、踊りやすいか、また母親らしいかを試行錯誤していました。フェリックス(猫)の(松下)裕次は、私の大好きな後輩の一人。音楽性豊かでテクニックを誇示してもいやらしさがなく、性格もとても素直。『真夏の世の夢』のパックや『白鳥の湖』の道化など演じてきましたが、これからもどんどん活躍してもらいたいと思います。十市くんと先輩の(古川)和則の注意に耳を傾け、日々練習していました。
群舞に関しては、まだ役を理解する力が不足していると感じる部分もあったし、タキシードの着こなしにはちょっと「?」な部分もあったけど、こういった新人達の頑張りに触発され、みんなが作品を大切に思い、指導者や先輩の言葉の意味を聞き取る力を身に付けていけば、プロだから許されない部分があることも理解してくれるだろうと思うし、そうなれは明日が見えて来ますよね。

何度も言いますが、プロは「頑張れば、失敗してもいい」世界じゃない。生徒の発表会とは違うんだから。でも失敗することもある。失敗したときに、それをどう受け止めるのかが問題だと思うのです。ちゃんと失敗を恥じ、真面目に取り組もうよ。「ま、いいか」で無かったことにして、笑って公演のビデオを見ないで欲しい。みんながそうなったら、未来は寂しいよ。もっとしっかり前を、上を向いて歩もうよ。一人ひとりのプロ意識が、今試されているんだと思う。

私は今、そう叫びたい。

さぁ、次もベジャールさんの作品が続きます。十市くんの協力も得て団員が一丸となり、ますます頑張っていきましょう!

                                      幸江より