9月1日(木) 舞台を迎えるまで

9月に入りましたね。秋です!(安易な^^;)
私は春と秋が大好き。暑いのも寒いのもダメだからかな?(またまた安易。)

バレエ団は、シルヴィとのツアーで上演される作品の、リハーサルキャストが大まかに発表され、じっくりとスタートしました。キャストはリハーサル用で、まだ正式決定ではないので、皆さんにお知らせする事が出来ません。ごめんなさい。でも、舞台では納得のいくメンバーでお目にかかれると思います。

こうやってキャストが発表されると、各々ビデオを見たり、踊る姿を想像して冷やかし合ったり…。舞台に向けて第一歩を踏み出すわけです。小品の場合は、それぞれが自分のパートをしっかり踊りこむ事で、自然とまとまる作品もあります。でもバレエ団全員が同じ方向を見て進まなければ、良い舞台が作れないものもあります。

その1つだと言えるのが、今回上演された『眠れる森の美女』でしょう。
ストーリーのある古典作品では、どんな小さな役であっても、それをどれだけ理解して大切に演じるか…。舞台の成功は、コール・ド・バレエにかかっていると言っても過言ではありません。私は長い間群舞も踊ってきたから、その難しさや重要性を痛感しています。それを今の若いダンサーに伝えるべき時が来たのではないかと、この頃感じていたのです。

今回の公演を迎えるにあたり、リハーサルが始まる前から、私は戦う気マンマンでした。何と?もちろん先ずは自分。周囲からあたり役と言われ、自分でも一番自由になれるこの役を、今回はどう踊るのか…。得意とされる役は、周りの期待通りに踊れて当たり前。それ以上でなくてはならいというプレッシャーもあります。しかし、小芝居を増やすのではなく、余分なものをはぎ落として挑みたいという気持ちがあった。それには先ず体づくり。カラボスは動けないと話しになりません。年齢を重ねたから動けなくなったと言われたくないし、動けなくなった事を芝居でカバーするには、東京バレエ団のカラボスは動きがハード過ぎる。幸い、まだ年を感じた事はないけれど、ちょっとした気の緩みが、ダンサーとしての坂道を急にすることは良く知っている。だから健康管理と体作りには徹底しました。ダイエットもしたよ('-')(ダイエット法は、今度改めてお話します!)こういう、自分との戦いが、先ず1つ。

そして次の対戦相手は…。1幕の4人+3幕の4人、8人のカラボスの手下(てした)達です。これは本当に大変だった!8人には今でも「幸江さん、怖ぇ〜」って思われてそう。本当はこ〜んなに優しいのにねぇ?…ねぇ、みなさん?( ;^^)ヘ..でも竜(高橋)は「幸江さんの洗礼を受けられて、アイツら良かったと思いますよ」って言ってくれた。洗礼を受けた経験者が言ってるんだから、間違いないかな?(笑) 8人のうち、4人は今年入団した新人だから、舞台に立つだけでも緊張していたと思うけど、そんなことはお客様には関係ない。リハーサルが始まっても、演技についてなかなか考えようとしない手下たちに、「私は舞台上では、初役のみんなのレベルに合わせるつもりはないからね」と、脅かしたっけ。カラボスのリハーサル中は、気質もカラボスになるみたい(怖)。ん〜、「大丈夫よ♪ゆっくりやろうね」とは言えなかったなぁ。。。

それから第三の敵は、始めにも書いた群舞との関わり。若いダンサー達の、舞台への取り組み方・役の捉え方。そこにも、少し刺激を与えたかった。「敵」なんて表現をしたけど、それは冗談。勝手にこちらが戦闘態勢に入ったって、何も伝わらないもんね。

なぜ今回、こんな風にみんなと関わりたかったかと言うと、今年は『ラ・シルフィード』や『真夏の夜の夢』といった、ストーリーを綴るバレエを踊る機会が多く、リハーサルに参加してきて、バレエ団の若いダンサー達の“演技”に対する戸惑いが感じられたから。先輩として何か道しるべになるような助言が出来ないものかと、日々考えていたんです。
いきなり「あなたは貴族の役なんだから」「○○の妖精なんだから」と要求されても、「はい、そうですか」って、演技出来るわけがない。ほとんどの人が、演技の指導を受ける事なくプロのダンサーになるという現状で、はじめから演技が出来るダンサーはごく稀です。しかも、どの作品も我々日本人は普段しないような動作や表現を要求れます。例えば挨拶するにしても、手を脇につけて頭を下げるのが日常だけど、舞台の上では片足を後ろに引き、膝を曲げて腰を真下に下げ、相手が男性なら手の甲にキスをされます。これを「自然に」って、どうやればいいの?と思って当然でしょう。

20年前、私が入団した頃は当時芸術監督だった(溝下)司朗先生や先輩方が、本当に細かく教えて下さいました。振付を覚えるのも、今のようにビデオからではなく口頭だったから、生きた言葉で役に対するヒントを聞くことが出来たし、分からなければその場で質問が出来た。けれど今ではビデオがあるから、自然と後輩は先輩に頼らなくなり、先輩も教えなくなってきた。それでも振りは覚えられるから、“一応”踊る事は出来る。それに、時代と共に身体的にも手足が長く顔も小さくなって、どんどん綺麗になってきているから、さらっと踊っても“一見”ちゃんと踊れているように見える。でもそこにあるのは「偶然の美」でしかない。もしその状態で舞台に立ったとしても、観客の心に何か届くはずはないと、私は思うのです。

では、どうしたらいいのか?

正直、後輩達の役に対する執着心の薄さには、憤りを感じる事もありました。でも個人的に話しをしてみると「自分でもどうしたら良いのか分からない」と悲鳴をあげる人も居た。それを知った今、私は先輩として、自分の舞踊や表現を突き詰めるだけでいいのか?立場上、全員を指導するのは難しいけど、個々にヒントをあげることなら出来るのではないか?では、どこから?どの役に対して?どんな言葉で?・?・?日々そういう思いが強くなっていきました。
当然、自分と同じ役についている後輩に対しては、先輩として責任があるから声をかけやすいし、聞く側も受け入れやすいでしょう。けれど、私がコール・ドを踊っていた時代を知らない後輩たちに些細な間違いを指摘しても、素直に聞き入れてもらえない事もありました。もちろん、それは反抗心から来るものではなく「幸江さん、この役やったことあるのかな?」という類の不信だと思う。それに細かい部分になると、芸術監督がその都度変更していく場合もあるから、私が先輩から受け継いだ振り付けが、100%正しい訳ではない。
でも芸術監督も、100人のダンサー全てに的確な助言をし、導くのはとても大変でしょう。だからこそ、バレエミストレスや、芸術監督補がいるんです。でも実際にその役を理解し、研究しながら何度も繰り返し踊ってきた我々も、もっと後輩と関わって良いはず。。。けれど言いたい事を言いたいように口に出しては、かえって混乱させるだけ。役を伝えていくって、難しいんですよね。

カラボスは、1幕なら貴族や妖精と、2幕は4人の王子や花のワルツと関わるから、自分と目が合うべき人には、とことん声をかけていきました。でも結果はまだこれから。今回私が声をかけた事で、少しでも意識が高まり、自分の役にもっと喜びと誇りを持って臨もうとする後輩が、一人でも増えてくれたらすごく嬉しい。そして舞台上で私の演じるカラボスの目を見る事で、何かを感じてくれたら、その目から私ももっとエネルギーをもらえる。群舞もソリストも、相乗効果でどんどんレベルアップして、バレエ団として進化し続けていきたいよね!

若いダンサー達が、もっと輝きをはなつ現場になって欲しい!

                                      幸江より