5月20日(木) フィレンツェでの『ドンキ』公演
先週の13日と14日に、フィレンツェでの『ドン・キホーテ』の全幕公演が無事終了しました。テアトロ・コムナーレ・デ・フィレンツェは天井画もボックス席もなく、どちらかというと日本の劇場に近い造りですが舞台はやっぱり傾斜がありました。でもゆるやかだったので、坂続きだった私たちには、逆にフラットよりも踊りやすかったかも知れません。
今回のキャストは初日が吉岡・木村組。二日目が上野・高岸組。私は初日にジプシーの娘、二日目にメルセデスを演じました。二日目組のリハーサルは初日の昼間のゲネ1回だけでしたが、何とか無事に終わりました。東京でもあまり通しての稽古が出来なかったので、お芝居の段取りや間など、主演の二人や初エスパーダの晴雄くんとほとんど打ち合わせをしていなかったので、私としては少し不安でした。水香ちゃんがどんなお芝居をするのか、どんな間合いを持つダンサーなのか分からないと、舞台上で芝居が止まってしまう可能性もあります。そういう面でもこのリハーサルは私にとってとても重要でした。『ドンキ』って、踊りはもちろんだけどお芝居が重要でしょ?特に東京バレエ団のワシリーエフ版はキトリ&バジルとメルセデス&エスパーダは関わりがあって、全幕を通してカップル同士という設定だから、よそよそしいお芝居はしたくなかったの。でも水香ちゃんは初めてという事もあってか、私の提案に素直に応じてくれました。
海外公演ということで、1幕の広場のシーンでの子役たちや、夢の場面でのキューピットたちを連れてこれなかったし、バレエ団側もキャストぎりぎりの人数しか居なかったから本番の舞台裏は大忙しでした。普段早替えを手伝ってくれる手の開いた後輩も一人も居なくて、千春の着替えを私が、私の着替えを千春が手伝ったり、メイクさんも1人で4人のメイクを担当しなければならなくて大変。スタッフも必要最低人数しかいないから、転換も大変で、私も自分の小道具は自分で管理。みんなが助け合って出来た舞台でした。でも日本人スタッフだけではなく、現地のスタッフの力も大きかった。イタリア人は明るくて、リハーサルの合間には歌を歌ったり(これがまたウマい!)「コンニチハ」と挨拶してくれたり…。かと思うとゆっくり話せばイタリア語が分かると思ったのか、丁寧に話しかけられたり。。。これには参りました^^;劇場内には、出演者とスタッフだけではなく、清掃や炊事担当の方、衣裳を作っている方、演奏関係の方、楽屋係りの方、そして事務職の方など本当に沢山の方々が働いていらっしゃいました。日本でも同じだと思うけど、「ボンジョルノ!」とイタリア語で挨拶してみて、その回数の多さは大変だったけど、私はその中の小さなたった一人なんだな、と思ったらなんだか嬉しくなりました。そして劇場を後にする時、そういった方々の目が温かいことに気がつきました。「もうさよならだね。待ってるから、またおいでね」とでも言われているような気がしました。バレエ団の公演だから海外に行ってただ舞台で踊ればいい…そういうものじゃないんですよね。
さて、舞台の話に戻りましょう。まずは初日に踊った大好きなジプシーから。
私はこの音楽がとっても好き!初めて聴いたとき、内臓がうねる様な衝撃があった。さらに振り付けを頂いた時はもう髪の毛が逆立つくらい鳥肌がたった。こんなに「踊りたい!」と思った役は他にないんじゃないかな?私にとってこの役はね、自分自身と重なる部分と自分にはない部分が混ざり合った不思議な役なの。でもきっと、その自分にはない部分も潜在意識の中では実感しているような近い感情なんだと思う。手を伸ばしたらそこにありそうな。。。だからすごくワクワクするしドキドキする。自分であって自分でないような、くすぐったい役、とっても魅力を感じています。振り付けを教えてくれたボリショイ劇場のキャラクターダンス教師のアラ先生からも「この役は貴女に合っているから、練習を続けるのよ」と初演の時に踊るチャンスのなかった私に言ってくれました。それも自信になっています。
それと、境遇は違うけどフィレンツェの町にも「ジプシー」と呼ばれる女性がところどころに居ました。彼女たちの表情からは過酷と怠惰の両極端な人生が想像出来ます。生きるための「欲」みたいなものが感じられる。でも私には物欲があまりありません。イタリアに来たからといって、ブランド店を見て回るようなタイプではない。では私の「欲」というのはどこにあるんだろう?(食欲は旺盛だけど)「その欲のなさがダメなんだ」と人にも言われるし自分でもそう思うことがあります。今回考え感じたのはこの「欲」についてでした。真にお金が欲しい、豊かな暮らしがしたい!逆境の中にある人がそう思うとどんな心になり、どんな表情になるんだろう?と。
本番前、ホテルの部屋に戻ってからも何度も何度も音楽を聴きました。イヤホンを付け、ベッドに腰掛け、上半身だけで踊りながら。するといつも同じフレーズのところで自然に涙が出るんです。悲しいとか辛いと言った弱い涙じゃなくて、もっと強いもの。それが何かは未だに私にもはっきりしませんが、自分の運命を恨みながらもそこで生きようとする強さ…みたいなものなのかな。ううん、言葉にするとやっぱり違う。もっと重たい気がする。それをどう捉えるか…これはもう演じる側も観る側も自由なんじゃないかな?私と一緒に泣いても欲しいし、慰めようと抱きしめたくなっても欲しい。演じていてもまだ答えは出ません。でも是非今、皆様に観ていただきたい役のひとつです。
一方、メルセデスは自信に満ちた明るくセクシーな女性。演じやすい?と思われるタイプの役柄でしょう。ん〜、私がセクシーかどうかは疑問ですが、演じていて非常に楽しめる役です。でもこれにはエスパーダがメルセデスをどう捉えているかが非常に重要。表面上はスカしていても、内面ではちゃんと愛していてくれないと「自信」を表現出来ないから。そういった面では首藤くんのエスパーダは優しかった♪エスコートが上手だから任せることが出来る。その上でメルセデスが主導権を握ったつもりになったりもするけれど、実はエスパーダの愛の方が一枚うわて…そんな関係だった気がします。晴雄くんはどんなだったか?初めてだった事もあるので、今は多くは語りません。9月にはきっと彼なりに練ってくれるでしょう。それまでに、少しでも役に関してディスカッションが出来たらいいのだけど、私のヒントを聞いてはくれるかしら?
ここで問題です。1幕の広場のシーンでのメルセデスの見せ場と言えば?
そう、剣です!でもこの剣が意外とクセモノでして…舞台上では刺す場所が決められているのですが、床の木目との相性が悪いと、なかなか刺さらないものらしく、闘牛士役のダンサーは刺す練習もしなくてはなりません。コツを小道具スタッフに聞いたりするのですが、重たい剣を持って踊ったあとに突き刺さなければならないのはかなり辛いみたい。「刺す頃には腕がバカになってる」と言っていたダンサーもいました。
でも、刺さらないのはカッコ悪いですよね?!そこで私は事前に闘牛士たちを脅しました(笑)。初演の時は「刺さらなかったら…○○だよ〜ん(▼▼メ)」と、もちろん冗談で!でも、ダメな時もありました。。。けど、今回は出番直前に「みんな〜よろしく!床を私だと思って刺してねっ♪」と。すると「えっ!さ、刺せませんよ!」とカワイイことを言う人や「それだったら剣の半分くらい奥まで刺さるかも知れませんねぇ!」と憎まれ口をたたく奴、いや人^^;。ただニコニコとリアクションに困る人…反応は様々でした。
んが!ナントその日の舞台では、ただの1本も倒れること無く!立派にすべての剣がすべてのシーンで床に対して「これでもかっ!」と言わんばかりに突き刺さっているではありませんか!ひとつくらい倒れればかわいいものを…こうも立派に刺さるなんて!1幕が終わってからの休憩の時間「1本も倒れないなんてね〜みんな床を私だと思ったからなんだよねぇ?」と言うとあるダンサーは「ちゃんと立てたのに、誤りたい気分ですっ!」とオドケて見せました(笑)スパーンと剣が立つ舞台は気持ちよかった。でも裏ではそんな会話があって、とても楽しい舞台でした♪ありがとう!
そして、今回が東京バレエ団員としてのデビューとなった水香ちゃんも、プレッシャーの中自分をコントロールして頑張っていたと思います。私は一緒に踊っていたから、ちゃんと見られなかったけど、良いスタートだったのではないでしょうか?グラン・パ・ド・ドゥを踊り終え、最後の行進のために舞台にハケて来たとき、彼女は私の隣に来たので、「おめでとう、これで東京バレエ団の上野水香だね^^」と手を取って声をかけると、「ホッとしました」と言って涙ぐんでいました。それを見ていた志織ちゃんも優しい笑顔を向けてくれました。終演後も団員みんなが拍手をして水香ちゃんを受け入れていました。これからも、バレエ団のレパートリーに取り組むことになるけれど、頑張って欲しいと思います。そして刺激し合っていい舞台を作っていきたいです。観に来て下さった方が心に何かを残して帰路につけるような、表面的ではなく深い芸術としてのバレエを。。。
次はドイツのヴォルフスブルクです。劇場が「劇場」ではないらしいので楽しみ。
日本は台風が来ているらしいですね?気をつけてお過ごし下さい。 |