5月20日(火) 『白鳥の湖』

2週間にわたって行われた世界バレエフェスティバル全幕特別プロの『眠れる森の美女』と『白鳥の湖』の公演が無事に終了しました。
先ずこの場を借りて、皆様にお礼をお伝えしたいです。公演前から沢山の励まし、また公演後は舞台の感想、疑問などをBBSやメールで頂いた事が、とても嬉しかった。私が舞台人として一番大切にしているのは「観客の為の舞台」と言う事です。どれだけ自分が楽しんで踊ったって、観客席に届かなければそれは舞台の意味がないから。ことに最近お芝居やキダム、バレエを観て心から感動する事が多かったので、自分もその感動を与えてあげられる立場に居る事を誇りに思うと同時に、気持ちがグッと引き締まっていました。だからいつもよりも数倍、皆様からの言葉はストレートに心に届き、支えとなり課題となりました。HPを通じて皆様と知り合えた事、お話しが出来る事を心から嬉しく思っています。本当にありがとうございました。

さてさて、前回の日記の続きから…といきたいのですが、カラボスについては、今回初めてカラボスを演じた(大島)由賀子本人の舞台を終えた感想などを織り交ぜてお話ししたいので、今日は『白鳥の湖』について書こうと思います。

今回私は第3幕の“スペインの踊り”にしか出演しなかったので、劇場でのリハーサルの時は常に客席に下りて、正面から仲間の踊りを見て気になるところは注意していました。そこで最も感じたのが、トゥ・シューズの音のうるささです。2幕・4幕で全員が走るところなどは耳を覆いたくなるほどの“足踏み”音でした。厳しい言い方をすれば軍隊のよう。。。『眠り』では女性陣が強くなったと喜んでいたけど、この『白鳥』に関しては、はっきり言ってレベルの低さを感じ、恥かしく思いました。確かに、ダンサーの体を壊さないようにと、佐々木さんがバレエの時のために柔らかい素材の床を特注し、敷いて下さっています。そのために、本来の床と敷いている床の間には空間ができ、音が余計に大きく響いてしまう事もあるのですが、それだけが原因ではないと思います。ダンサー一人ひとりの意識の問題です。それはソリストに至ってもそう感じました。

2幕ではコール・ドが32人、3羽と4羽が加わってほぼ40人が同時に舞台を走ることになります。確かに1人と40人では音の大きさが違って当然ですが、音の質によって聞え方は変わるはずです。無造作に靴の先を床に叩きつけるような走り方、踊り方をすれば「カン!カン!」というような高い音がします。つま先にもっと神経を使えば、「コツコツ」というように音は低くなり、ある程度は消せるんです。群舞は単調な動きや、立ったままで静止するようなポーズが多く、履きこんで柔らかくなったトゥ・シューズでは、すぐに足の爪が痛くなってしまうので、つま先が固めの靴を選びがちです。それでもあんなに音をさせたのでは「湖のほとり」でも無ければ「白鳥」ではない。そう言う事を考えて踊った人が何人居ただろう?皆、列を乱さないよう努力はしていました。でも列があっていれば良いの?列を合わせながらもするべき事がある。だからコール・ドは大変なの。私もかなり長い間群舞を踊っていたから分かる。ソリストになった時、当然プレッシャーはあったけど、ある程度は自由に踊れる事が楽だと思えるほど、群舞というのは自分を殺して前に並ばなければならないもの。その上で白鳥になったり、妖精の雰囲気をだしたり、幽霊になる。「群舞をきちんと踊れない者は良いソリストにはなれない」と、以前司朗先生は教えてくれました。それはそういった細やかな神経を養うための言葉だったのだと思います。ただ「前〜ならえ!」とやっていたのでは作品にならない。その事を、群舞の一人ひとりがもっと自覚するべきだと、強く感じました。4羽などのソリストには踊る前の歩き方を考えるように言いました。靴の音をたてて、その音を合わせる事で「合っている」と安心するなと。
私も『ジゼル』のミルタを踊るときは大袈裟に言えば音がするかしないかで、本番に履く靴を選ぶ事もあります。少しくらい爪が痛くても、幽霊は体重が無いんですから、なるべく音のしない靴を。でもね?失敗談もあって…踊りだしの一番初めの部分で、あまりの靴の柔らかさに爪が“ピキッ”と割れてしまって、翌日の舞台はまるで拷問を(爪と肉の間に楊枝を刺してグリグリ…って(><;)受けているかのような痛みとの戦いだった事もあるな〜。…そこまでする必要は無いけど、もう少し自分の体の一部であるポアント(トゥ・シューズ)には気を使わなければね。ココで力説してもダンサーがみんな見ている訳ではないから、折を見て直接伝えていきます。そうして踊っていけば、踊り方だって滑らかさが出て、変わってくると思うよ?女性諸君、頑張ろう!

ちょっと厳しい事を書いたので、この辺で話題をアニエスとジョゼへと移しましょう。
本番前日のゲネの日に来日し、18日は文化会館から直接成田空港へと向かったハードなお二人でしたが、とても素晴らしい3日間だったと思います。
あずき色のレオタードに淡い紫色のTシャツを羽織り、黒のタイツ姿でレッスンをするアニエスは淡々と落ち着いた雰囲気。オレンジ色の長袖Tシャツに黒のスエット姿のジョゼは動きが大きくてパッと目を引く。二人はあまり無駄口を利く事なく、黙々とレッスンしていました。(そのへんはお茶目な面のあるマラーホフとは違うな〜・笑)アニエスは今回白っぽいトゥ・シューズを履いていたので、どこの会社の靴かと訪ねると、“ブロックス”との答え。「すごく合うの」と言っていました。

私は自分の出番まで、1,2幕は舞台袖から観ていたけど、3幕中は舞台脇の“Aリハーサル室”(通称Aリハ)で、スカートさばきや扇子の使い方の練習、ポーズの確認にふけっていました。やっぱり長いドレスを着ると、上半身の使い方を多少変えないと動きが生きてこないから。そして例の後ろにグワッ!っと反る練習も…。オディールの出番まで、一緒にAリハで自習していたアニエスは、そんな私を見て目を丸くし「ん〜(首を横に軽く振りながら)私には出来ないわ」と誉めて頂きました。m(_ _"m)恐縮です!アニエスは私と目が合うと必ず微笑んでくれたので、フランス語が出来たらどんなに良かったか、と悔しい事しきり。あ、でもみんなに微笑んでたのかも?舞台からも感じると思うけど、彼女は優しいお姉さんという感じの柔らかな雰囲気の女性でした。
『眠り』のカラボスと違って、ゲストとは絡みが無かったし、いつもよりも一緒にリハーサルする時間が短かったので、特別な出来事は無かったけど、3日間の舞台こそが大きな出来事でしたね。ミスを最小限に抑え、観客には気づかれない技。疲れも見せずに日に日にテクニック的に強くなっていく精神力。プロフェッショナルな二人を見て、同じ白鳥を去年自分が踊った事が、夢の出来事だったかのように感じました。下手の袖から3幕のグラン・パ・ド・ドゥを見ながら、「あそこに居たんだな…」って。

何だかとても長くなってきたけど、最後にもう1つだけ。
初日に観た方で、2幕の幕切れにジョゼが床に落ちていた白い羽を拾って胸元へ持って行ったのを覚えていますか?あれには感動!!!!!あれね、アドリブなんだよ!?涙が出ちゃった!すっごく素敵だったよね?そういう演出もどこかにあるらしいけど、とっさにそういう事が出来るってスゴイと思った。自分でも気に入ったのか、ジョゼは翌日から適当な時に自ら羽をさりげなく落として最後はそのポーズをとっていました。こんな事書くと夢を壊しちゃうかな?でも初日のあのアドリブを見た人は超ラッキーだったのです!そういうシーンは『ジゼル』のラストでもあるけど、『白鳥』でオデットへの愛を確信するためにも、絶好の小道具だと思いました。

書きたい事がまだまだあるから話しが戻ったり先にいったりするかも知れないけど、裏話など、思い出したらまた書きますね。

バレエ団のみんな、良い休日を♪私は次の舞台に向けて、DUO公演のリハーサルに行ってきます!