11月26日(火) “若い(?)ジプシーの娘”
初日を終え、楽屋から“メルセデス”用に用意した3足のトゥシューズを引き上げて帰宅。その日の夜はファンの方々に頂いた、美しいお花を花瓶に挿しながら、本番の舞台を思い出し、もっとこうすれば良かった…とか、あの時のポーズは決まったな!とか、酒場のシーンは驚いたなぁ!とか…頭の中で反省会をしました。
そして二日目の本番当日、家を出る前にゲネプロ(本番前日の衣装メイク付きのリハーサル)の時に自分が踊った“ジプシー”のビデオを見て、イメージを膨らませながら上野に向かいました。あの一曲の中で“女”の持つ感情をどう強弱をつけて表現するか…。しかも、決して恵まれた状況に居ない、卑しいとされた階級の女。。。
去年の初演の時、振り付けをしていった段階では「この役はメルセデスが踊る」と聞いていて、エスパーダもジプシーのシーンでバリエーションがあったので、何の疑いも無かったんだけど、途中で(ん?それって変だぞ?)と思いました。広場のシーンから続いてるのに、衣装を着替えるの?って。すると今度はメルセデス+キトリの誰かが踊るって話しになり、結局、友佳理、美佳、祐子、千春、私の5人がリハーサルをする事に…。その時点で私は既に、メルセデスが酒場もファンダンゴも踊る事について頭の中で整理がついておらず、苦しんでいたので、正直誰が踊るのかはもうどうでもいいや!とさえ思ってリハーサルに入ったんです。ところがその音楽と振り付けに、魅せられていった私は、メルセデスよりもずっとこの“ジプシー”に引き込まれていきました。大袈裟に言えば“カラボス”や“ミルタ”の時に感じたような…それ以上に何かとっても大きなものに出逢えた感覚がありました。
結局初演の時にはキトリ役の人が交代で踊ることになり、私は踊る事が出来なかったけど、振り付けをして下さったアラ先生には「この役は貴方にとても合っているから、これからもリハーサルを続けなさい」という言葉を頂いていたので、いつか必ず踊れる日が来ると信じていました。それに、これは余談だけど、実はあのオレンジ色の衣装は始め“酒場のメルセデス”用に、私のサイズで作られていたものなんです。衣装合わせの時「似合うね!」と好評だったので、初演の時には着て踊れなかったのがとても残念でした。だから今回衣装に「井脇」とラベルが付いていたのを見た時には「お帰り♪」と言う気持ちでした(笑)
衣装の話しになったので、初演時の衣装秘話を少々…。
『ドン・キ』の衣装と装置はすべてロシアで作られたもので、その色使いとラインの美しさは衝撃的でした。(実は私もバレエ団OBの先輩について衣装製作をした経験があり、初演時の『ドン・キ』プログラムの中で美佳ちゃんが着ている黒いボディのチュチュは私が作ってあげたものなんです!(ちょっと自慢)だから、ロシアから運ばれた衣装には縫い方にも興味がありました。)衣装スタッフもロシアから何人も来日して、本番前日まで直しの作業をしてくれたんです。衣装合わせの日、衣装の掛かったハンガーには、それぞれのデザイン画も付いていて、「この絵がこうなるんだ?」と感動…。全ての衣装が並ぶその部屋にはとても重厚な雰囲気が漂っていました。
…でも何かヘン。広場のシーンのメルセデスの衣装がやけに裾が長く、床に着きそうな勢い。「これで剣の間をパ・ド・ブーレするの?」と日本の衣装スタッフに聞いてみると「ん〜そうなんじゃない?」と答えられた(笑)でも千春と二人で「ヘンだよね…」と言っていました。そして酒場のシーンのメルセデスはオレンジ色の現在“ジプシーの娘”の衣装でした。「酒場って、真っ赤ってイメージじゃない?」「うん、これオレンジだよね…ヘンだね…」となり、案の定そのオレンジ色の衣装は「これはジプシーのイメージだ」というワシリーエフさんの一声で“ジプシーの娘”のものに…。では酒場のメルセデスはどれを着るの?…と言う事になり、やはりこれでは裾が長すぎると言う事で、広場のメルセデスの衣装が選ばれました。でも今度はそれにしては裾が短い!そこでその衣装は少しでもスカート丈を長くする為に、解体されたのです。衣装を着た私のところに、はさみを握り締めたロシア人スタッフがやってきました。ちょっと恐かったけど、着たままの状態で袖の部分を威勢良く切り始めました。こんな経験は初めてでしたが、衣装が切り取られていく時は、ちょっと悲しかったな。
そして次は、広場のメルセデスはどれを着る?と広場のメルセデスの衣装探しが始まりました。(話しがややこしいかな?)赤くて、膝下丈の衣装…ありました。ジプシーのシーンで、ジプシーの女の子が2〜3人立っているのですが、その中の一つが赤くて膝下丈。でもデコレーション(飾り)が寂しいので、基本の形はそのままにデザインを変更し、作り直す事になったのです。だから、広場のメルセデスの衣装は一つしかなく、私と千春は同じ物を着なければなりませんでした。身長が5センチ以上違うので、スカート丈がちょっと私には長いと指摘されたけど、これは我慢するしかありませんよね。。。
そして酒場の衣装は解体されたまま、本番前日のゲネプロにも間に合わず、取り合えずボディとスカートをザクザクと手縫いで合体させ、ゲネプロはどうにか衣装をつける事が出来たと言った具合。だから完成した衣装を着て踊れたのは、本番のその時が初めてだったのです。この衣装については元々広場のシーン用だったので、私と千春はそれぞれに衣装があり、裾の長さも個人に合わせてくれました。ロシアの衣装スタッフも、日本の衣装スタッフも力を合わせて夜中まで作業してくれたんです。
余談が長くなってしまいましたが、話を“ジプシーの娘”に戻しましょう。
友佳理ちゃんの迫力、美佳ちゃんの嘆き…それぞれ魅力的で、自分はどんな風になるのか、楽しみなところもありました。私たち三人はそれぞれキャラクターがはっきりと違うので、お同じ役を踊った場合どう違って見えるのか、興味がありました。。。
私はリハーサルで勢い余って最後のスライディングに失敗し、両膝を強打して物凄い痣を作ったり、足の甲の部分をリノリウムに擦る形になった為に火傷を負ったり…(滑り込んだ時に“煙”が出てたよと、からかわれるほど)。リハーサルをビデオに撮って見たら、キリっと踊ったつもりが単に表現に乏しい踊りにしか見えなかったり、音楽のとり方一つで見え方が違ったり…。でも一つ私の心の中には変わらない思いがありました。
それは「今の自分を出そう」と言う事。ここ数年、私は様々な問題にぶつかり、考える事が多く、悩み、迷い、決断し、進んできました。そんな心の葛藤を舞台で表現したかったんです。決して美しいだけではない人間の心。どちらかと言えば醜い部分の方が多いかも知れない心。そしてその反対側にある純粋な部分、弱さ脆さ…それを隠して生きようとするうわべの強さ。そしてほんの一瞬垣間見る希望。。。役に自分の人生を重ねてみよう、演じるのではない本物の孤独感、それに伴う恐怖心…そして思い出。この思いが観客の皆さんの人生のそれらと重なって、観ていて切なくなるような…そんなジプシーを踊りたかったんです。
踊ってみて、その思いを出せたと思えますが、もっと深く拘りを持って、これからも何度も踊ってみたい役です。
そこで提案!“ジプシーの娘”は、これだけ色々な思いのこもった、奥の深い大人の女性なんだから、役名を“若いジプシーの娘”ではなくて“ジプシーの女”にしましょうよ!友佳理ちゃんも美佳ちゃんも異論は無いよね?…でも、これって誰に言えば良いのかな??
話そうと思えばまだまだ色んな話があって、仲間達もみんなそれぞれに拘った部分があったので、折に触れ少しずつ紹介していきたいと思います。『ストレッチ講座』の実現の次は『団員への突撃インタビューコーナー』かな?(いつになるか分かりませんが!)
それでは週末、『ストレッチ講座実践篇』でお会いしましょう! |